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大人になったなぁ、としみじみ実感する瞬間というのがある。 例えば、1人温泉地に赴き部屋で酒をグッとあけながら食事をしている時、 あるいは小料理屋でもしかり。 1人旨い酒を酌みながら旨い料理に舌づつみをうっている時、そんな時にふと大人になったんだなぁ、と実感する。 アルコールを嗜むようになって以来、いつしかオーセンティックなバーに憧れを抱くようになっていた。 ギムレットを傾けるフィリップ・マーローの幻影を脳裏に浮かべつつ、 いつしか自分もカウンターでグラスと対峙したいと思っていた。 『George's Bar』でマティーニを口に含んだ時、長年の憧れが現実に変わったのを感じた。 黙々とカクテル作りに励む老バーテンダーを前に僕はしみじみと大人の幸せを実感していたのだ。 |
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その日の僕はそれで終わってしまった。 その後のことは記憶に残っていない。 翌日、あまねく気怠さの中でジルベルトマーティーニのことだけが頭に浮かんだ。 いったいあれはなんだったのだろう…… 数週間後、再びお店を訪れた。 「ジルベルトマーティーニを」とオーダーする声がだいぶうわずっていた。 ミスター・譲二がチラと見て少し笑ったような、気がした。 |
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